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INTERVIEW No.3

「コンドロイチン硫酸の生理作用と医療応用」

医学博士/ハセガワ・パーク・クリニック 名誉院長

長谷川 榮一・はせがわ えいいち

1926年京都市生まれ。京都府立医科大学卒。59年、ロックフェラー医学研究所留学。69年、ミシガン大学医学部留学。71年、京都府立医科大学薬理学教授を経て、ハセガワ・パーク・クリニック院長就任。現在、佐倉市国際文化大学名誉学長、日本ペンクラブ会員。


主な著書

「新栄養化学」(南江堂)
「ムコ多糖実験法」
「新・医学ユーモア辞典」(エルゼビア・ジャパン)
「驚異の薬効 コンドロイチン硫酸」(現代書林)

第3の生命物質、糖鎖の代表・コンドロイチン硫酸

1861年に軟骨成分として発見され、その90年後に硫酸基の存在が明らかにされたコンドロイチン硫酸は、第1の生命物質・タンパク(現在の生命に必要)、第2の生命物質・核酸(未来の生命に必要)と並び、現在と未来の生命の懸け橋と考えられる第3の生命物質・糖鎖 専門用語アイコン の重要な一員です。

これら3種の生命物質の特徴は、塩基性分子 + 糖分子 + 酸性分子の3部分から構成された「両性」物質であることで、相手の化合物が酸性でも塩基性でも、うまく結合し調和して大きな化合物を造ります。このような融和性が生命を支える物質として、必要とされる条件なのでしょう。

構成される塩基と糖の部分は、3種ともほぼ似ていますが、「酸」の部分に大きな違いがあり、タンパクではアミノ酸(本体はカルボン酸で炭酸の一種)、核酸ではリン酸です。これに対してコンドロイチンなどの酸性の糖鎖 専門用語アイコン は、カルボン酸とともに硫酸が存在し、この硫酸基が強い陰性基としてナトリウムやカルシウムのような陽イオン、あるいは陽荷電の悪玉分子を捕らえる作用が大きな特徴であり、威力でもあります。

動物体に含まれるコンドロイチンは、つねに硫酸基が結合しており(例外的に線虫のコンドロイチンは無硫酸)、そのため単に「コンドロイチン」と略記されることが多いようですが、体内で手足となって働く部分は「硫酸基」であることを忘れてはなりません。硫酸と聞くと恐ろしい劇物のように思われますが、希薄な状態ではほとんど毒性はなく、生体内ではシスチンなどの含硫アミノ酸から造られます。

コンドロイチン硫酸の生理作用と薬理作用

150年あまり前に軟骨から発見されたとき、硫酸基の存在も分からず、生理作用も不明でしたが、1930年代に頭痛に効果のあることが発見されました。(東大・江上教授)。その後の研究により、進行性の感音性難聴、症候性神経痛、腰痛症、関節痛、肩関節周囲炎(五十肩)に治療効果のあることが分かり、眼科用としては角膜表層保護の目的で使用が認可されています。

難聴に対する効果は、聴覚細胞で音響外傷により低下したコンドロイチン硫酸を補充する生理作用らしく、神経痛や筋痛などの鎮痛作用は、硫酸基が発痛物質を吸着除去する薬理作用と考えられます。関節痛に対する有効性試験はアメリカのNIH(米国立衛生研究所)で実施されています。

コンドロイチン硫酸の長所は連続投与でも副作用がほどんどないことです。身体の成分だからという理由ではなく、体内で比較的代謝されやすく、本体も代謝物も水溶性で体内に蓄積しにくいため、ほとんど副作用が起こらないのです。

発展を続けるコンドロイチン硫酸の基礎研究と臨床応用

コンドロイチン硫酸はアスピリン同様、古いクスリですが、細胞内の作用は不明のことが多く、近年になって続々と関節以外に関与する重要な事実も発見され、臨床応用も開かれつつあります。その役割のひとつに神経回路形成時のガイド役という役割があります。神経細胞の突起、つまり通信線にあたる神経線維が延びて行くときは、コンドロイチン硫酸はその延長方向を誘導する作用があります。大脳での短期記憶センターである海馬や、微細な運動調節を行う小脳プルキンエ細胞の線維は、コンドロイチン硫酸が存在しないと正常に発達しないのです。この研究はアルツハイマー病の治療にも応用される可能性があります。

古い時代に発見されたコンドロイチン硫酸は、21世紀の最新のクスリでもあり、今後の基礎研究と臨床応用の発展に大いに注目し、期待したいと思います。